例えばご夫婦と兄弟3人のご家庭がありました。
自宅と預貯金と賃貸物件を1棟所有していたとします。賃貸物件の名義は父の名義。そして父が亡くなり相続が発生。もともと長男に譲ろうと思うっていて、管理会社とのやりとりは長男にさせており、長男にもそのことは伝えていました。
しかし遺言を書いているわけではなかったので、相続は話し合いへ。ただ賃貸物件は空室がいくつもあり募集している最中でしたので、相続発生後に案内したお客様が申込みをしたいと言ってきました。このような父が亡くなった後でもせっかく募集している空室を埋めるための新規の契約行為を行っていいのでしょうか?という質問がよせられました。みなさんはどう思いますか?
賃貸物件をもらう人が長男と決まっているならその人の判断でいいのでは。と思うのが一般的だと思います。しかし法律では結論としては遺言で相続人を指定しているか、遺産分割協議が成立するまでは、相続人の全員の合意がなければ新規契約はできません。何故なのか?それを詳しく見ていきます。
まず相続発生後、相続人が確定せず、もし法定相続分どおりで相続が確定した場合は本物件は共有物となってしまいます。この共有物となった賃貸物件を「使用すること(使用)」・「収益を得ること(収益)」に関しては、民法上では「変更」行為とみなされれば全員が一致すること、「管理」行為については過半数の合意、「保存」行為は単独でできるということになっています。
この保存行為というのは、例えば水漏れした部屋を補修するとか、使えなくなった給湯器を交換すると言うような行為です。入居者の方が最低限生活できるように整える必要がある行為のことをいいます。
そして「管理」「変更」行為というのが何になるかといいますと、一般的に「管理」は短期賃貸借契約の契約。これは一時的に借りる賃貸借契約のことをいいます。1ヶ月とか半年とかです。一般的な賃貸契約は2年間の自動更新が普通です。この場合の契約は長期の賃貸借契約にあたり「変更」行為になります。ただ状況によっては「管理」行為に当たる可能性もあるそうです。
つまり共有名義になる可能性がある賃貸物件において、賃貸借契約を新しく締結することは「変更」行為になり全員の合意が必要になりますので、まだ分割協議が確定していない状態では、誰か一人が単独で了解して進めると後でもめることになります。
ですので、せっかく賃貸のお客様が最も多い春の時期に遺産分割がまとまらなければ、空室になっている部屋が募集できないだけでなく、退去したあとの部屋の募集もできません。なので遺産分割がまとまるまで、ずっと空室のままにしておかないといけない可能性があります。
ですから賃貸物件をご所有の方は、必ず遺言で相続人を確定しておいたほうがいいです。できれば共有ではなく単独で、このケースであれば長男一人に相続させるのが理想です。
賃貸物件の共有は、もし誰かが売却したくなっても売却することができなかったり、改修工事もすぐに進められなかったり、共有者の誰かに相続が発生したら共有者が増えてしまう可能性があります。
また判例では相続が発生してから、分割協議が確定するまでの家賃などの収入は法定相続人が法定相続分で分けるといった判決も出ていますので、その財産について争いの種になってしまいます。だから賃貸物件を相続する人はしっかり決めておく。とても重要なことだと思います。